2011年12月30日金曜日

セックスレスの時代?


男も女もお互いに興味なし!?

2011年は重苦しい空気がよどんだ1年でした。今回はちょっと息抜きにごく普通の男と女の話題をとりあげましょうか。

最近立て続けに日本の男と女がお互いに興味を失い、人口減少に拍車がかかっているという記事を見かけました。GIDとは直接の関係ない話ですが、男が女に興味を失い、女も男なしでも生きていける社会になりつつあるというのは、これは大問題です。

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『セックス負債は日本の損失だ』
(11月29日CNNネット版)より

経済学者の観点から見れば、日本の過去20年の病を直す応援の声は常に「日本よ、金を使え、消費せよ」だった。人口学者の観点からは、その叫びは「日本よ、産めよ、増やせよ」である。

先週発表された調査結果には、ますます顕著になってきた後者の問題が浮き彫りにされている。人口及び社会保障問題研究所の調査結果によれば、1億3千万人の高齢化するこの国において独身男性の数がまたまた記録を更新したという。

18歳から34歳の独身男性の数は、先回2005年の調査にくらべ9.2%も上昇している。独身男性の約61%がガールフレンドを持たず、また成人女性の半数が夫またはボーイフレンドを持たないという。さらに悪いのは、ガールフレンドもボーイフレンドも、妻も夫も持たない男と女のなんと45%もが、相手を探すことにも興味がないということだ。

しかも、30台後半の独身の男と女の4人に一人は、セックスした経験もないとか。

ここで注目すべきは、調査対象になった独身男性も女性も、それぞれ86%と89%という高率で将来的には結婚したいという願望はもっていることだ。その障害は何かというと、経済的な問題であって、調査対象の独身男女の40%以上が結婚しない最大の理由は、お金のやりくりが出来ないという経済上の不安があるからと答えている。

しかし、経済的な理由というのは本当だろうか。この調査では未婚の若い女性の90%が、独身でいる方がよいと答えているのだ。

これは今年の春に行われた日本家族計画協会の調査結果にも符合する。それによると、16歳から19歳の男性の36%がセックスには無関心かさけたがる傾向があり、2008年の調査にくらべると19%も増えているのだ。一方、調査対象となった10代の女性の59%がセックスに興味がないと答え、これは2年間で12%も増加している。

これらの統計上の数字は、よく話題になる“草食系の男子”の増殖という現象とも一致する。この用語は2006年に作家の深沢まき氏が造ったもので、「日本ではセックスは肉体の関係と同意義であり、最近の若い男性は肉体的関係には興味をもたないので、“草食を好む男の子”と呼ぶことにしたのがきっかけ」とCNNに語っている。

この現象は世界でも出生率が最低レベルの国に数えられる日本が、人口構成上の問題をかかえていることを意味する。日本の出生率は1.34であり、安定した労働力を維持するために必要な2.1を下回っている。人口の5分の1が65歳以上であることを考えると、将来の人口増はますます重要になってくる。

3年前に日本最大の経済団体である経団連は参加企業の1600社に対して、低下する出生率に歯止めをかけるため妻帯者がもっと家庭で自由時間を過ごせる配慮をするように要請したことがある。

しかし、この最近の調査結果からみると、残念なことに、日本のカップルは与えられた宿題をまじめにやっていないようだ。

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<インドネシア・バリ島で見たトイレの標識>

『セックス回数調査でインドネシアがトップ』
(The Nation 11月25日版)
          
アジア10カ国の性的にアクティブな男女を対象にして行われたセックス回数調査ではインドネシアの男性がトップの座を占めた。

これはバイアグラなどの勃起不全(ED)を改善する薬品メーカーである、アメリカのファイザー社が最近行った“アジアの理想的セックス調査”によるもので、インドネシアの男性が平均月に9.8回の性行為を行っていることが判明した。2位につけたのはフィリピンの男性で、月平均で9.4回であった。またインド男性は月平均8.8回で、タイの男性はというと、月平均7.7回だった。

この調査では1,685人の男性と1,624人の女性が対象とされ、国別では中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、そしてタイである。回答者のすべてが31歳から74歳まで、過去12ヶ月以内に性交経験がある人たちである。

女性の対象者はインドの女性が月平均8.7回でトップを占め、次が月平均6.8回であったインドネシアとマレーシアが続いた。この調査ではタイ人女性は月平均5.7回でしかなかった。

クアラルンプールのモナッシュ大学泌尿器外科医のジョージ・リー助教授によると、この調査によりほとんどのアジア人にとっては性的満足感の達成には勃起の硬さが重要な要素をしめていることがわかったとのこと。例えば、マレーシア人男性の90%がこの勃起の重要性を指摘している。

満足感については回答者のわずか三分の一が性交時の持続時間を重要視しているにすぎなかった。

タイの有名な性に関する研究家であり産婦人科医でもあるパンサック医師は、270万人ものタイ男性が勃起障害をもっていると推定されると述べている。ただ、治療を求めて医師を訪ねる人は27,000人にすぎないとか。

<注>この調査では日本は調査対象にも選ばれなかったみたいですが、その理由はわかりますね・・・・。ファイザー社のバイアグラもあまり売れていないのでしょう、勃起の助けも求めない日本では。

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<年末の独り言>
『ジェンダーとセックス』
ジェンダー意識がはっきりしていないと、肉体的行為をともなうセックスにつながらない。日本の若い世代がセックスを求めなくなったということは、ジェンダー意識も希薄になっているということか。最近のファッションや行動様式をみていても、ジェンダーレス化がセックスレス化につながっているのではないかと思う。なんともわびしい時代になったものだと嘆くしかない。

彼女のいない男性の半数ちかくが交際も望んでいないという。女性に肉体的に接するまでにはいろいろめんどうな手順を踏まなければならない。いきなり触ればセクハラになり、想いを告白しても断られることもありえる。その自分がぶざまに見えるのは今どきの過保護になれた若者には耐えられないのだろう。それなら、独りでいたほうが気楽である、セックスなしでも生けていける・・・ということになるのだろうか。

ジェンダー意識がしっかりした人間なら、異性を求めるのはごく自然である。べつに相手が同性でもかまわない。要するに自分のジェンダー意識に素直にしたがった行動であればよい。それにふさわしい性行動が健全なセックスであり、社会的にも容認されるべきだと私は思う。
ジェンダーよ、しっかりせい。セックスよがんばれ!

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2011年12月22日木曜日

第三のジェンダー、やっと離陸へ


レディーボーイ搭乗機、離陸準備完了

今年の1月の投稿でとりあげたタイのPCエア航空がやっと離陸することになりました。以下は12月16日付けのバンコクポスト紙の記事です。(1月26日投稿:「第三の性」エアホステス離陸準備中)及び1月28日の「その続報」参照)
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第三のジェンダーのキャビンアテンダントを配置する世界初めてのエアラインといわれる、個人所有でタイ国籍のPCエア航空が、当初の予定より9ヶ月遅れながら離陸準備が整いました。

PCエアのフライトアテンダントとして採用された4人のレディーボーイたちは(写真参照)、昨日のデモフライトで報道関係者にそのサービスぶりを披露しました。この航空会社はまずチャーター便として営業運航を開始し、来年の6月以降から正規の航空会社として定期便運行を開始する予定です。


PCエアの処女飛行は、12月24日のバンコクとラオスのビエンチャン間のツアグループを乗せたチャーター便で、来年1月23日にはバンコクと中国の二つの都市を結ぶチャーター便の運行を開始する予定になっている。

民間航空局の規則にしたがい、定期便運行開始に先駆けて、アジア圏内のツアグループを対象にチャーター便で運行を開始し、来年6月に正規航空会社としての資格認定を受けることになる。

昨日のデモフライトでは唯一の所有機材であるエアバス310-222型機を使い、報道陣を招待した機内で4人のレディーボーイ搭乗員が他のクルーに加わりそのサービスぶりを披露した。

唯一のオーナー社長であるタイ人のピーター・チャン氏は報道陣に対して、運行開始の遅れは財務上の問題ではなく、旅行ハイシーズンの到来にタイミングを合わせたからだと説明した。

不動産会社の役員でもある同氏は、ローシーズン中の需要上の問題とその後のタイを襲った大洪水も遅れの要因ではあると述べた。

この新事業への自信の表れとして、自身がキャビンアテンダントの経験をもつ同氏は、ほとんどの航空会社はリースで機材を調達するのが普通だが、既存の航空会社からジェット旅客機を購入するにあたって10億バーツ(約28億円)のキャッシュで払う道を選んだ。

また、来年の第二4半期には定期便運行を開始し就航先も拡大する予定なので、新たにワイドボディーのA300-600型機を2機導入する計画であると述べた。

ピーター・チャン氏によると、PCエアの就航先として候補にあがっているのは、香港、中国、韓国、そして日本である。PCエアが5年以内に収支均衡になるとは思っていないが、定期便運行開始に合わせてタイ株式市場に上場することを考えているので、投資家および国内・海外のツアオペレーターとも協力関係を築きたいとのこと。

さらにPCエアはトランスセクシュアルに就職の門戸を開き、キャビンアテンダントとして引き続き採用していく方針であり、機会平等を企業理念としてかかげている、と述べた。

30人採用したキャビンアテンダントのうち4人がレディーボーイであり、また19人が女性、男性は7人、全員が資格をクリアしている。レディーボーイのひとりタニャラットさん(上の写真の右から2番目)は2007年度のミス・ティファニー・ユニバースの栄冠に輝いたこともあり、またモデルやテレビの喜劇ドラマの女優としても知られている。

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日本のメディアでもこのニュースは取り上げられたようですが、ロイター通信によるとピーター・チャン氏(オレンジ色ネクタイの男性)は“私がパイオニアになったようだが、他の航空会社も私のアイデアに興味をもつだろうと確信している”とのこと。日本のエアラインにもぜひお勧めしたいアイデアですね。エアラインだけでなく、トランスジェンダーは鉄道関係を含む幅広い分野のサービス産業にはぴったりの適性をもっていると思います。
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<注>トランスジェンダーはタイでは“カトーイ”とか“レディーボーイ”と呼ばれています。これらの記事でも”third gender” “transgender” ”transsexual”などいろいろの名称が使われています。
この写真でもわかるように彼女たちを“レディーボーイ”というのは、“ボーイ”の部分にちょっと抵抗がありますが、タイではSRS後でも性別変更が法的に認められないので我慢するしかないかもしれません。それでも、PCエアのような職場の門戸をひらく動きが、SRS先進国タイで起こったのは拍手喝采です。日本への就航を楽しみに待ちましょう。

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2011年11月20日日曜日

子供を産んだ男 (その続き)


「妊娠した男」---その続き

このニュースはすでに2008年11月の時点でアメリカでは大きな話題になっていたのは知りませんでした。その後も引き続き、「男とは」、「女とは」、「家族とは」というテーマで多くのメディアで取り上げられています。

「妊娠した男」の最初の記事とビデオ映像を見て疑問に思ったこともあり、自らMTF当事者としてまた現役の医師として世界各地のGID関係者などに接して研究されている先生に以下のように質問してみました。

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<私の質問>
FTM男性が妊娠して出産したということは、女性の胸はすでに取っていたものの、
女性の生殖器官である卵巣と膣・子宮はそのまま残してあったということですよね。
ここにドナーから提供された精子を女性である奥さんの手で注入したと言っていますので。

CNNの動画ではオレゴン州に住んでいて、出生証明書や運転免許、生命保険、結婚許可書などすべての公式文書でちゃんと男性と認められているそうです。疑問になる点は、手術でクリトリスがマイクロペニスになっているとはいえ、女性の証である卵巣と子宮を残したままでも、アメリカでは男性と認められたということになります。州によって法律は違うとはいえ、これは性別の根幹に関わることなのでWPATHなどでは話題にはならなかったのでしょうか。日本では卵巣・子宮摘出が女性から男性への条件だと理解していますが?
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<先生からの返答>
ご指摘の通りだと思います。全く鋭い指摘だと思います。

個人的には「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。
また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。
ジェンダーに問題が有るのですから身体の変工は個人の問題です。
ペニスがあっても女性のジェンダーで生きて行けるヒト、生きて行けないヒト、いろいろあって良いんじゃないでしょうか。
寧ろ法律で規定することが変だと思います。

アメリカではgender incongruenceが確認されればGIDと診断され、GRS後にIDが変わります。
彼の場合はオッパイがなくて、ペニスがある?けど内摘はしていない状態ですよね。
外性器が希望の性のモノに近似していることの解釈は日本でも裁判所によってかなり違うようです。

彼の場合は微妙だと思いますが、恐らく社会組織化の過程、例えば事実上の奥さんが居る、男性としての職業を持っている、など総合的に判断されたのではないでしょうか。pregnant
manというのはそう言う意味で画期的だと思います。

この辺りの日本の裁判所の事情について暫く日本で調査してみようと思っています。
しかし、性別ってこんなもんなんでしょうか・・・・。

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<私からの返信>
しかし、この外見だけでパスすることはたいへん重要な要素だと思います。これで社会生活上の種々の制約から解放され、全部とは言えませんが(子なき条項など)自由度が高まります。ほとんどのGID当事者がこの第一関門を通過するために悩み苦しんでいるからです。裸になってチェック受けることはまずないからこそ、外観だけでパスできるのは”自由度”の面で重要な意味があると思っています。

先生の場合はこの関門はすでに通過されていて、日本の融通のきかない法律だけが障害になっているわけです。それにしてもこの「妊娠した男」のアメリカの例には驚きました。ハワイ州で認められた正式の異性結婚は他の州でも認められるので、今このカップルが居住するオレゴン州でも認められるというわけらしいです。二人目の子供も生まれるので、今後法律面でのトラブルがあり得ることは覚悟しなければ、と当人もインタビューで語っていました。

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<補足>
“What is a man? What is a woman? The journey of a pregnant man” というCBSテレビの特集番組(2009年10月22日)では、トーマス・ビーティーはすでに同じドナーの第3子を身ごもっていることを打ち明け、司会のバーバラ・ウォルターズも絶句していました。この時妊娠5週目だったので、2010年8月には3番目の子供が誕生しているはずです。

性の自由を標榜する6団体の当事者グループからも賛否両論の声があり、固定観念に凝り固まった個人などからも嫌がらせの電話や郵便などが届くそうです。生まれた二人の子供にはいつ打ち明けるのかという質問には、すでに絵本などを通じてわかる範囲で、生命の誕生と多様性について教えているそうです。子供たちはトーマスを”daddy”、ナンシーを “papa” と呼び分けているそうです。

勇気付けられるのは、妻ナンシーの最初の結婚で生まれ、成人した二人の娘が全面的にこのカップルの生き方を応援していることです。今後への不安はかかえながらも、あくまで前向きに明るく生きている勇気あるカップルですね。

さらに補足ですが、アメリカではこのような「妊娠した男」で子供を産んだ例は35人から40人は知っている、と実名で登場した看護助産婦がCBSテレビで話していました。ただ、トーマス・ビーティーのように、ラリー・キング、バーバラ・ウォルターズ、オプラ・ウィンフリーのような超有名トークショー番組に出演し、雑誌に記事を書き、さらに本まで出版して堂々とカムアウトした例はこれが始めてであっただろうと推測しています。

ジェンダーという人間の根源的な存在要因を、単に生殖器という物体にとじこめるのではなく、形をもたない精神の象徴として自由に開放する社会現象として捉えると、この「妊娠した男」の性の歴史に果たす役割はいつか評価される日がくるのではと思います。

最初に引用させて頂いた当事者で医師でもある先生の言葉をくりかえしますと、
“「外性器が望む性に類似していること」って超馬鹿げていると思います。また内摘だけで戸籍の性別が変えられるのも同様に超馬鹿げています。”

これは日本のことですよね?「妊娠した男」トーマス・ビーティーはとっくにこのこのレベルを超越しているという印象を強く受けました。

ジェンダーの問題はGIDの根幹である問題ですから、今後ともこのテーマはとりあげていきたいと思っています。

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2011年11月19日土曜日

子供を産んだFTM男性

妊娠した男とその妻:"Pregnant man and wife"

アメリカのCNNテレビの看板番組「ラリーキング・ライブ」が取り上げた話題のFTM男性トーマス・ビーティとその妻ナンシーのあっと驚く実話をご紹介しましょう。

女の子として生まれたものの、いつも自分は男の子だと感じていたトーマスは、FTM男性としてナンシーとハワイで夫婦として正式に結婚。現在はオレゴン州に住むふたりは女の子を出産したばかりだが今また二度目の妊娠をしている。

二人の関係とどういう経緯で子供の両親となったか、ラリー・キングの司会で二人の話を聞いてみましょう。次のサイトからCNNの放送にアクセスできますので、ビデオ画像でも確認してください。
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/index.html
http://edition.cnn.com/2008/US/11/18/lkl.beatie.qanda/#cnnSTCVideo

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(CNN) -- 「妊娠した男」として知られるトーマス・ビーティはCNNのラリー・キングのインタビューに妻ナンシーと7月に生まれた長女のスーザンを伴って出演した。トーマスはすでに第二子を身ごもっている。
トーマスは「愛の陣痛:ひとりの男の世にも珍しい出産の物語」を出版したばかり。(以下のインタビューは一部編集してCNNネット版に掲載されています。)

Larry King interviews the Beatie family -- Thomas, Nancy and their daughter, Susan.

Larry King: トーマスとナンシー、よく来てくれましたね。まずおめでとうございます。調子はどうですか。

Thomas Beatie: 大丈夫です。ありがとう。

King: 世間から注目をあびてびっくりしていることでしょうが、それは予期していました?

Thomas: 正直言ってほんとに驚いています。誰にも知られないままに、私が産んで済ませられるだろうと単純に考えていました。妊娠がわかった後、大勢の医師に相談したのですが通常の妊娠ではないため、医学的な差別も受けましたし、出生証明書の問題や結婚が成立するかまで追及されそうでした。そこで”Advocate”というレズビアン誌に記事を書いたのがきっかけで、大騒ぎになったというわけです。

King: ちょっと話を整理するために初めから聞きましょうか。あなたは女性だったですよね。今は自分を男性と呼んでいますが、女性として生まれたのは間違いないですね。

Thomas:  はい、間違いないです。.

King: お二人はどういう経緯で会われたのですか。

Thomas: かれこれ18年前になりますが、ハワイのジムで知り合いました。

King: 一緒に生活するようになって何年ですか。 

Nancy: 11年ですが、もうすぐ12年になります。 

Thomas: そうです、11年です。結婚してからはもうすぐ6年になります。

King: 見た目も明らかに男性ですよね。あなたは男性ですね。そのための手術は受けましたか。

Thomas: (男性としての)胸の再建手術を受けました。それとホルモン治療です。

King: それで自分自身にとっても男性なのですね。

Thomas: そうです。 

King: 彼か彼女のどちらかが妊娠した方がよいというアイデアはどこからきました?

Nancy: 私たちはまず家族を持ちたかったのです。女である私は子宮摘出手術を受けていましたので、養子縁組やその他のいろんなオプションを考えたのですが、二人の間で子供を産むには彼より適任者はいないことに気づいたのです。

King: それで、どういう方法をとったのですか。

Nancy: ええ、そこでまずドナーを探しました。それから自宅で行いました。私が自分でやりました。

King: あなたが自分で?ドナーというのは精子提供者という意味ですね?

Nancy: そうです。精子を注文し、それは自宅に届けられました。それを針のない注射器に移しました。

King: そしてそれを注入したわけですね?

Nancy: そうです。 

King:  ということは、トーマス、その部分を変更するための下半身の手術は何もしていなかったということですか。

Thomas: 男性ホルモンのテストステロンが自然に行う作用だけです。

King: 常識では考えられない方法で妊娠に成功したわけですね。

Nancy: まあ、そういうことですね。

King: 彼は今また妊娠しているのですね。そのやり方はどうやって学んだのですか。

Thomas: ネットで調べる方法しか考えられませんでした。助けになる医者を探すのは骨が折れました。やっと精子銀行に出す書類に署名してくれる医師が見つかったことで、自宅で自分たちだけで行うことができるようになったのです。でも、その方法などは全部やはりネットで調べました。

King: どうして養子縁組をしなかったのですか。

Thomas: それも可能な方法なので実際に考えましたが、自分の遺伝子を残す必要を切実に感じていたので、まず試しにやってみて、結果がだめだったら代理出産を考えようというつもりでした。しかし、代理出産は自分が受精能力がある身体であることを証明してくれる内分泌科医師の介入が必要になるなど、多くの問題があるのが予想できたのであきらめました。

Nancy: 私たちの産んだ子供が欲しかったのです。

King: 出産するというのはどんなものでした、トーマス?

Thomas: イヤー、なんとも言葉では表せないような経験ですね。実際に出産を体験したことのない人には何と表現したらいいか・・・・。まちがいなく、人生の見方が変わる体験であるとは言えます。

King:今はオレゴン州に住んでいるわけですが、 法律面での問題にはぶつからなかったですか。

Thomas: 自分の出生証明書も男性に、健康保険、運転免許証、生命保険などすべて男性として記載されています。実際にこの子の出生証明書ももっています。

King: それにはどう書いてあります?

Thomas: それには私を父親、ナンシーを母親と記入して提出しましたが、役所は最終段階になって彼女を父親、私を母親と変更してしまいました。それがまた変更になり、結局われわれ二人が両親として登録されました。それはそれで一向にかまわないですが、わたしたちは同性婚ではないので同棲パートナーシップは認められません。わたしたちはあくまで法的に認められた夫と妻の関係なのです。

King:  その違いは大きいですよね。

Thomas: そのとおりです。ところが、政府の一部ではわたしを男性と認定しているので、生まれた子供の出生証明書をどう説明するのか、見解の相違がでてきています。それがわたしたち家族の将来の妨げになるのではないかと本当に心配しています。

King: こんなことを言っては失礼ですが、もしあなたが死亡した場合にはどういうことになりますか。誰かが名乗り出て子供の親権を争うことになるとか?

Thomas: そういうことはじゅうぶん起こり得ます。わたしが一番恐れていることです。それで助けが必要なのです。法的な課題をちゃんと整理するために弁護士の助力が必要なのです。

King: お二人が出会ったときはどんなカップルだったのですか。

Thomas: 普通のカップルです。

King: 聞きたかったのは、おふたりはゲイ(同性愛)だと思っていましたか。

Thomas: いいえ。その時点ではわたしは女としての生活をしていました。わたしは法的には女でしたが、心の内部では依然として男でした。ほかの人たちがわたしたちを見れば、レズビアンのカップルだと思ったことでしょう。

King: 自分がゲイ(同性愛)だと感じることはありますか。

Nancy: ゲイの感じはありません。

King: ナンシー、自分は男性と結婚しているという感じはありますか。

Nancy: あります。

King: あらゆる面で、完全に?

Nancy: はい。彼が妊娠しているときでも、彼はわたしにとっては男でした。

King: どんな出産でしたか。

Thomas: 自然分娩でした。

King: 帝王切開ではなくて?

Thomas: いいえ、そんなうわさがあったようですが、違います。

King: 次の子供の誕生を心待ちにしていますか?今何ヶ月ですか。

Thomas: 10週間です。

King: 同じドナーですか。

Thomas: 同じドナーです。

King: どこでこのようなやり方を学んだのですか。インターネットと言っていましたね。しかし普通の性行為はできないと思いますが、どうですか?

Thomas: できます。

King: あれ、そうですか?

Nancy: 赤ん坊を産むための方法ではないですが。.

Thomas: ホルモン治療のせいで、わたしのクリトリスは肥大していてペニスのように見えます。妻と性行為はできるのです。

King: それは驚きですね。知りませんでした。つまり、あなたにはペニスのように見えるクリトリスがあり、それで愛を交歓する行為を営むことができるというわけですね。

Thomas: まあ、そういうことですね。.

Nancy: わたしが母親です。

Thomas: わたしが父親です。

King: 出産のサイクルはこれで終わりですか。この赤ちゃんが最後の子供になりますか。

Nancy: まだわかりません。決めてないものですから。

King: あなたたち、本当に素晴しいカップルですね。お二人がやったことはとてもとても簡単にできることではありません。しかも、それを世間に公表することはたいへんなことです。美しいかわいいお嬢さんですね。今後とも将来の幸せを祈っております。

今日はトーマス・ビーティと奥様をお招きしました。出版された本の題名は“Labor of Love, the Story of One Man's Extraordinary Pregnancy." 「愛の陣痛:ある男の世にも珍しい出産の物語」 その題名どおり、アメージングな物語です。

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<補足解説>
常識にとらわれず思いついたことをまず実行に移すという、アメリカ人の性格が如実に現れているお話です。

FTMでありながら子宮・卵巣は摘出しないまま、ホルモン治療と乳房切除、それに肥大したクリトリスを転換したミニペニスだけで、男性と認定されるのもアメリカならの大らかさでしょうか。

日本の現行の法律では正規の夫婦、親子関係は認められないと思います。

ビデオでは大きなお腹をかかえた彼の姿が見られます。しかも出産は帝王切開ではなく、自然分娩だったのも驚きです。

ミニペニスでの挿入性行為はむずかしいと言われていますが、愛し合うカップルの間なら愛の交歓方法はあるはずです。

しかし、やはり印象に残るのは二人の自信あふれるこの言葉です。
ナンシー: I am the mother.
トーマス: I am the father.

肉体の器官・外観はともかくとして、やはり当事者自身のジェンダー意識がどこまではっきりしているかが決め手になるのでは、というのが強く印象に残ります。

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2011年9月15日木曜日

タイのTS、法廷闘争に勝つ

一歩前進、法廷闘争に勝つ

8月31日のバンコクポスト紙によると、タイ防衛省が所属のトランスジェンダー徴集兵を“精神障害者”と公式文書で呼称しているのに反旗をひるがえして、当事者のカトーイ(トランスジェンダー)とTSサポーターたちが法廷闘争に立ち上がった。その判決が9月13日に言い渡され、14日の紙面ではみごと勝利の判決が写真入のニュースとして報じられました。

SRS大国ながら自国民に対する法的な差別は依然として残るのがタイ社会の実情なので、タイのTJ・TS関係者の将来への朗報となったこのニュースを8月31日の記事とまとめて紹介いたします。
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[写真] サマートさん(左から2人目)と友人たちがプラカードをかかげてトランスセクシュアルへの差別廃止を訴えた。

行政法廷への訴えは防衛省に対するもので、当人のジェンダー認識を理由に“精神障害者”として徴兵記録に記されているのがその理由。

サマートさんをリーダーとする女装のTJたちは、サマートさんや他の女装TJを2005年に制定された軍規により“恒常的精神障害者”として明記する徴兵記録の変更を求めて行政法廷に訴状を提出した。

同様の反論に対する行政官庁の従来の見解では、自らの性別に違和感をもつ当事者で性転換手術を受けていない者は“カトーイ”と呼ばれる。すでに性転換手術を済ませている者は、軍法にしたがい“精神障害者”として認定されるべきである、との認識であった。その根底にある理由は、手術によって復元不可能な身体になっているからである。

ただし、ホルモン補充療法や豊胸手術などの身体への変更は、まだ復元の余地が残されているため精神障害者には含めない、との見解であった。

「当のサマート氏はまだ性転換手術を受けていないので、恒常的精神障害者と認定したのは不当であると考える。したがって、防衛大臣は30日以内にサマート氏の徴兵記録を精神障害者からカトーイに変更すべきである」、と政府行政委員会の一員であるクリチョット氏は自らの見解を述べた。

行政法廷の審理手続きでは、複数の政府行政委員が審議したのち行政委員長が意見を集約して結論に導くための制度があり、委員長はこの案件を審議する行政法廷の代表判事がつとめる。
サマートさんは委員の意見に勇気づけられたと言いながらも、9月13日の判決まで待たなければならないこと、また防衛省内の関係規則の変更などやっかいな手続きがあること、うわさでは性に違和感を抱く者は「自らの性志向と生来の性別は相容れないこと」を表現する新しい用語を考案中らしい、などと述べた。

およそ20人のゲイグループのサポーターたちが、法廷の前で7色の傘をかかげながら応援に色をそえていた。

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9月13日判決日。行政法廷の防衛省に対する判決は「性転換手術を受けていないトランスセクシュアルを恒常的精神異常者と徴兵記録簿に表記してはならない」いうものだった。
[写真]原告サマートさんは勝訴の判決に笑顔のVサイン。

従来の呼称が侮蔑的であると不満を訴えていたトランスセクシュアルや人権活動家たちは喜びの声をあげた。この判決によりトランスセクシュアルを徴兵義務から免除する理由の基準を明確化する動きが加速すると思われる。

また、性転換手術を受けていないトランスセクシュアルをどう表記するか検討するよう防衛省に求めた。判決によると「徴兵制度は防衛省の重要な役割であり、人権侵害をふせぎ軍役への興味を維持するためにも法制の改定を急がなければならない」。

“恒常的精神異常”は“性同一性障害(gender identity disorder)“と変更される可能性が強いと思われる。

“Sor Dor 43”として知られる文書は就職時の申請書などに広く用いられる様式で、これに“恒常的精神異常者”と書かれてはトランスセクシュアルがまっとうな職業につくことはまず考えられない。性の多様化を推進するグループの代表も、今回の判決により政府機関だけでなく民間企業の経営者などもその趣旨をくんで改善してほしい。また、同様の悩みをかかえるグループが協力して、性的違和感は精神異常ではないことを証明する公的な文書を求めて運動を続けていきたいと述べている。

陸軍予備役司令部のチャーチャイ大佐は、陸海空軍ともこの修正作業がすでに進行中であるのでこの判決に控訴することは考えられない。また、国家評議会もこの修正提案を検討中であり、来年の徴兵時期までには実施されるのではないか、と述べた。

さらに、この修正案のもとでは、性転換を受けないトランスセクシュアルはカテゴリー2として登録され、このカテゴリーのひとたちは、その年の徴兵数が予定数に満たない場合には軍役に召集される可能性がある、と述べた。
(注)タイでは21歳から兵役義務がある。

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[私見]今回のタイの判決はたしかに一歩前進であり、社会的に隅っこに置かれたTSの立場にすこし明かりがともった感じはあります。しかし、根強い偏見は依然としてあります。後戻りのできない性転換手術を済ませたトランスセクシュアルがどう扱われるかはこの段階では明らかでなく、差別的境遇が続くのではないかという予感がします。それにしても“恒常的精神異常者”はひどすぎました!
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2011年8月18日木曜日

SRS? GRS?


SRS/GRS; Gender/Sexuality, etc.

何気なく使っているこのような用語に深い意味があることに、あらためて考えさせられる機会がふえて頭を悩ませていました。私はGID当事者ではないので、このような問題を客観視できる立場から私見を述べてみたいと思った次第です。

セックスか、ジェンダーか
一般に通用している「性別適合手術」という言葉は”Sex Reassignment Surgery”の訳語ですが、これを”Gender Reassignment Surgery”と呼ぶ人もいます。タイのプリチャー医師もその一人で、以前からGRSという用語を好んで使っています。SRSが一般的な今ではGRSは古い用語なのだろう、くらいにしか思って深くは追求しなかったのですが、最近ちょっと待てよと思い始めています。GRSにはそれなりの深い意味合いがあるのではないかと・・・・。

つまり“Sex”と“Gender”の違いと、その相互関連性です。俗っぽい言い方をすれば、セックスというのは両脚の間にあるもの、ジェンダーというのは両耳の間にあるものという単純明瞭な区別ですが、それはあくまでこの摩訶不思議な存在の宿る場所を特定したものにすぎません。

両耳の間というのは、もちろんあらゆる精神活動をコントロールする脳の司令塔のある場所のことで、とくに人間の性行動・性衝動に方向性を与える前頭葉のある場所のことです。愛情、幸福感、また違和感や不協和音もここで感受します。両脚の間にある性器官もこの脳内の司令塔に情報を提供し、またそこから指令を受ける関係にあります。ただ、きわめて生物学的な存在である性器官は出先機関にすぎず、そこで味わう興奮や快感はすべて脳内司令室の受容により判断され幸福感や満足感として伝達されてくるのです。

おいしい、まずい、甘い、辛いなどの味覚も舌の味蕾で味わうとはいうものの、実際は脳神経を伝わって脳内の器官が感知して味わうのと同じです。舌の味蕾と脳神経は切っても切れない関係にあり、セックスも味覚も脳に対しては同じような従属関係だと言えます。ただ、出先機関の働きなしには、司令塔もなすすべがないという関係にあるようです。

GID(性同一性障害)というのはジェンダーとセックスの間の不協和音が原因となる悩みですが、ジェンダーは脳神経に関わるもので現状の医学では手術であれ薬物手法であれ、これを治療することは不可能です。一方セックスに関する肉体器官は外科的処置で、完璧とはいえないまでも作り変えることは可能です。性器官を外科手術によって、男性から女性へ、女性から男性へと転換して性別を再指定するのだから、性別適合手術(=性別再指定手術)はSRSでよいわけです。この手術という手順をふむことでジェンダーとセックスとの違和感が解消して、脳内の司令塔が発する本来の性意識に基づく人生が送れるようになる、というのがSRSという外科的処置の果たしている役割だと思います。

セクシュアリティとは?
ところが、性転換手術のアジアの草分け的存在であるプリチャー医師がなぜGRSを好んで使うのか、思い当たるケースに出会う機会が何度かありました。それは、SRSを受ける当事者にも自分のセクシュアリティ(性的指向)が異性なのか同性なのか明確でないひともかなり存在することです。

「男性から女性」のMTFを例にすれば、SRSを経て生物学的には女性になったものの自分の性的指向が異性である男性なのか、手術の結果いまや同性となった女性に向けられているのか、明確な自覚がないという場合があることです。

生物学的には男性として生まれ育った人が自分の性別に違和感を覚え、SRSを経て念願の女性になれたわけですから、今や異性である男性に性的興味をもつのが普通ではないか、と思うのが“普通”です。ところが、例外というよりは簡単に型にはめてはいけない面があるのです。

一般人の中にも「エイ・セクシュアル」という性愛にはとくに興味をもたない人もいるのです。古い調査ですが、アメリカのキンゼー・レポートでも未婚の女性では14-19%、未婚の男性では3-4%が、対象が異性であれ同性であれ性的接触に一切の興味をもたないと指摘されています。“草食系男子”が増えつつある現代の日本でも言えることですが、GID当事者にも同じような傾向をもつひとがいても驚くにはあたらないかもしれません。

念願の女性の身体になったのに、性的興味の対象は意外にも“同性”の女性だった、つまり同性愛指向だったという人もいるのです。心を許し、肉体的な愛情表現の対象として持続的な関係をもてるのは、意外にも同性だったと気付くポストTSの例は少なくないかもしれません。つまりゲイやレズビアンの関係がトランスセクシュアル当事者にも同じように存在するというのも事実です。レズビアンから派生した“トランスビアン”という言葉もあるそうですから。

ジェンダーとセクシュアリティの相性
ここで興味深いのは、SRS後にどういう性的指向に向かうかは実際に性体験をしてみないと分からない場合があることです。多くのGID当事者は肉体上の性別の違和感から逃れるために必死の思いでSRSまで進むのが精いっぱいで、実際の性体験を経ていない当事者が少なくないのではないかと思われます。

ジェンダーとセクシュアリティの実際の相性テストを経ないままSRSを受け、事後に経験する性体験からはじめて自分のセクシュアリティが確認できたケースが想定されます。この中には、異性愛もいるでしょうし、同性愛もいるし、両性愛も、また性愛などなくても生きていける人もいる、というのが現実の姿ではないかと思います。

つまり、SRS後にはじめてジェンダーとセクシュアリティの落ち着き場所(相性)がわかる、という見方に私は傾いています。この両者の相性が合致すれば、精神と身体の安らぎが得られるのではないか。それがSRSという外科的処置の目指すところであり、それが達成されれば究極の目的である精神(ジェンダー)の安堵が得られる。

「セクシュアリティ」という肉体的性指向はあくまで「ジェンダー」という性意識の従的な存在なので、「意識上の性別をいったん白紙に戻し再指定する手術」という意味に解釈できる「GRS=Gender Reassignment Surgery」と呼んでもいっこうに差し支えなく、この方が読みが深い術名ではないかと思えるようになった、という反省があります。

プリチャー先生は手術後一ヵ月半経てばもう性交渉をしてかまわないというのが口癖です。ちょっと早すぎるのではと言うと、そんなことはない、一ヵ月半で大丈夫だとゆずらない。医者というのは多くを語らない人が多いので、その真意を類推しての話ですが、SRS後に出来るだけ早い時期に親密な性的関係を体験することで、ジェンダーとセクシュアリティの相性を見極めて落ち着く場所がきまり、GID当事者がすみやかに安堵できるパートナーとともに生活の基盤を築いていけるようにと願っている、という先生の温情であるといささか拡大気味(!)に解釈してみた次第ですが・・・・。

眠れない真夏の夜の夢想だったかもしれませんので、このことは次回先生にお会いしたときに確認できればと思っています。

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2011年8月1日月曜日

トランスジェンダーの権利を求めて


トランスジェンダーにも権利がある (マレーシアからの報告2)

性転換手術のあと女性への姓名変更を訴えていたアシュラフ・ハフィズさん(26歳)が、州高等裁判所の否決の判決後わずか10日後に死亡した今になってはタイミングが狂いましたが、7月24日付のSTAR紙の読者投稿欄に次のような投稿がありましたので、遅ればせながらご紹介しておきます。(7月31日付投稿参照)

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アリーシャ・ファルハナさん(男性名アシュラフ・ハフィズ)と家族の方々に哀悼の意を表します。彼女やその両親には何の罪もないにもかかわらず、彼女は生まれながらの重荷を背負う人生になったわけです。

彼女や家族がもろもろの差別、いやがらせ、残酷とも言える扱いにさらされる立場の追いやられるのは、理由はどうあれ自然もたまにはへまをすることがあり、いろいろな障害を負った人が生まれてくるということを社会がまだ理解していないからです。肉体の性とは別の性意識をもって生まれるのもその一例にすぎません。

マレーシアも世界の先進国の例に倣い、このような人々をあらゆる社会生活の場面において真摯に受け入れる態勢を整えるべきです。

目や耳の不自由な人たちやその他の身体障害者と同じように、トランスジェンダーにも基本的人権があり、愛され、また愛する権利があって当然です。

自らの権利だけでなく同じような境遇におかれているトランスジェンダーたちの権利を求めて、闘う決意を示したアリーシャ・ファルハナさんの勇気ある行動に応援の拍手を送りたいと思います。

Dr.Peter J.Pereira (助教授、シャーアラム市)

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2011年7月31日日曜日

トランスセクシュアルの悩み


トランスセクシュアルの性別変更(マレーシア


マレーシアの日刊英字新聞STARに最近3回続けさまにTJ・TSについての記事が載ったので、ご紹介します。

最初の記事は東海岸トレンガヌ州での性別変更に関する裁判での判決です。この州はイスラム教国マレーシアでも保守的なイスラム教徒の多い地域なので、判決が「ノー」だったのはべつに驚くことはないですが、裁判に訴えても性別変更を勝ち取ろうとした勇気あるTS当事者がいたことに正直おどろきました。

”Mykad”(マイカード)と呼ばれるIDカードが日常生活や職業の選択に直ちに障害になるだけに、SRSを済ませても性別変更ができないのは当事者にとっては深刻な問題です。日本でもそうだったように、法律の壁をやぶるのは並大抵なことではないので、同情は禁じえませんが、、、。


”性転換しても性別変更は認めない”
トランスセクシュアルに法廷は”ノー”
 (7月19日発行STAR紙)

26歳でメディカル・アシスタントとして働いているアシュラフ・ハフィズ(仮名)さんは、女性への性別変更を求めて高等裁判所に訴えていたものの、その願いは却下された。本人は出廷していなかったが、出生証明書と身分証明書の性別を女性名のアリーシャ・ファルナに変更を求めていた。

その女性名を運転免許証と2口の銀行口座、さらに医科大学のメディカル・アシスタント修業証明書に転記して欲しいというのが要求だった。

アシュラフ・ハフィズさんは首都クアラルンプールの有名病院パンタイ・メディカル・センターで精神科医のカウンセリングとホルモン治療を経たのち、2009年5月にタイで性転換手術を受けていた。

彼の裁判所への申請書では、小学校に入った頃から女性的なしぐさや行動を好むことが顕著にあらわれ、好んで女生徒たちと遊ぶ傾向があったことが記されている。

彼の母親の提出した委任状にも、彼の性器は小さすぎて正常な機能を果たしていなかったと書かれている。

ヤジッド・ムスタファ判事はアシュラフ・ハフィズの申請を却下するにあたり、性転換手術だけを根拠に性別変更の申請を認める法的な根拠がないことを挙げている。

その他にも、性染色体の数、外性器および内性器とも女性と認定する要素を満たしているとは認められないこと。また、医師の診断書も不完全で断定的でないことに加え、法廷での審理期間中に生物学的見解を述べるための医師の証人出廷申請もなかったことを指摘している。

さらに、人間の性別は妊娠中に決定されるもので、手術によって変えられるものではないと延べ、
当法廷での判断を下すにあたり、法律解釈に与えるインパクトとその判定が社会一般を混乱させる恐れがないかどうかも判断基準として考慮せざるをえなかった。

また、手術はあくまで当人の精神が安らげる体に適応させるために行われたことを考慮すれば、手術の事実だけをもって法的判断を求めるのは不十分であると認定せざるを得ない、との判決理由を述べた。

この性別変更申請の弁護士をつとめたホーリー・アイザークス弁護士は、当原告は地元の大学でさらに学びたい意欲があるにもかかわらず、普通の生活をするのも困難な状況におかれていることを当初から指摘してきた。

アシュラフ・ハフィズさんは5月25日の法廷出頭の際には、赤と白のクバヤ(伝統衣装)にピンクのヘッドスカーフという人目を引く服装で現れ、この保守的な地の人々の間でどよめきが起こった。その折には、詰め寄るレポーター達には目もくれず、顔をかくしてメディアから駆け去っていった、という経緯もあった。

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《私的コメント》
マレーシアでは宗教の自由は認められていて、アラブ諸国のようにガチガチではなく、キリスト教会、仏教寺院、ヒンズー教寺院などもあちこちで見かけます。

しかし、国教であるイスラム教の戒律はそれなりにきびしく、シャリアというイスラム法典が法律の基本になっているので、性別変更という人間の誕生にかかわる問題への兆戦と法的訴えが将来的にも認められる可能性は、残念ながら低いと思わざるを得ません。

また医師などの有利な証言につながる専門家の証人を呼ばなかったというのは、弁護側の大きな手落ちだったと思います。SRSの将来を左右する絶好の機会に十分なインパクトを与えないまま、逃してしまう結果になったのはなんとも残念なことです。

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《続報・悲報》
ここまで書いて投稿しようとした矢先の今朝(7月31日)のこと、日刊スター紙を見て仰天しました。当のアシュラフさんが心臓病のため急死したというニュースです。以下は記事の要約です。

<州都:クアラトレンガヌより>
アシュラフ・ハフィズさん(26歳)が死亡した、彼が裁判所に訴えても欲しかった女性名アリーシャ・ファルハナとともに。

当地の病院の医師たちによると、彼は金曜日に心臓発作と低血圧症のため入院したが、昨日土曜日午前4時55分に狭心症と心発性ショックが原因で死去した。

2年前にバンコクで性転換手術を済ませ、身分証明書の性別を男性から女性に変更するための裁判で敗訴したばかりだった。彼の遺族は高等裁判所の判決にしたがい、同日午後4時30分に当地のムスリム墓地に男性として埋葬をすませた。

アシュラフさんの父親(60歳)は、”近親者がみんな集まり最期の時を迎えるまで見守っていたので、心にぽっかり穴があいたような気持ちだ”。また母親(51歳)は、”まもなく来るイスラムの祭典ハリラヤに備えて気に入った衣装を注文したばかりだったのに・・・・”と悲嘆にくれていた。


一方、首都クアラルンプールでは、女性・家族・地域開発担当大臣(女性)は、”アシュラフさんの件は気にかかってはいたのに、相談相手になる機会がなかったのは残念です。門戸はいつも開いているのですが、呼びつけるわけにもいかなかった。”
また昨夜、50人ほどの人々がひマレーシア司法会館前に集まり、キャンドルライトのもとアシュラフさんの追悼集会が開かれた。社会活動家でセクシュアリティ協会の設立者のひとりであるパン・キー・テイクさんは、”女性名「アリーシャ」さんの公正な判断を求める権利が否定されたことに抗議する意思を訴えたかったのです。”
            (5月の出廷時のアリーシャさん)

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2011年7月28日木曜日

SRS目前の迷い

SRSを目前にして迷う

まだ20台前半のMTF当事者の方とメールでのやりとりが数回続いたあと、具体的な手術日程を検討する段階にきて急に連絡が途絶えました。まだ若い方なのでいろいろ事情もあるだろうと思い、念のためもう一度連絡したところ、いろいろ迷うことがありもう少し考えた上で決断したいので・・・・という丁重なお返事がありました。

以下はそれに対する私の返答です。ご参考までに私の返答をそのまま投稿させて頂きます。

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00さん、お便り頂きありがとうございます。たいへん気持ちが楽になりました。

実際のところ、00さんのように若い人は始めてだったので、面談もなしに本当に話を進めて大丈夫かなという一抹の不安は感じていました。その意味で私自身の反省もふくめていい教訓の機会になりました。

迷いの理由はわかりませんが、SRSを決断するに当たって自分のジェンダーに確信がもてなくなった(本当に女性になるのが本望なのか?)、それとも一時の迷いなのか(そう主張する精神科医もいます)?

自分のジェンダーに自信がもてない場合は、体の性を変更するSRSにはぜったい進むべきではないと思っています。いずれにしろ、迷いが解決するまではSRSは避けるべきです。後戻りのできない手術になりますから。

先日バンコクに行ったとき、FTM(女性から男性)の人たちと会食の機会があり貴重な経験談を聞きました。その人(30台前半)はまだ乳房を除去しただけの段階ですが、ホルモン治療のせいであごひげ、口ひげを生やし、外見、話しぶりなども精悍な男性そのものです。

彼の話では、ポルノビデオを見るきは、自分が上になってセックスしている男の気持ちになって観ている、というのです。これは明確に「彼」が体はまだ女性でありながら、ジェンダー(性意識)は完全に男性のものであるという証拠だと思いました。ジェンダー意識とはこんなものだという一例に過ぎないかもしれませんが、面と向かって聞いた生々しい個人体験談ですから参考にはなるでしょう。

ホルモン治療も1年も続けていると後戻りできないと理解していますので、この点も医師に相談したうえで、慎重に行動してください。まだお若いですから、あわてることはありません。いつでもご相談に応じますのでご連絡ください。

くれぐれもお大事に。

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《さらに思う》最近はGID・SRSに関する情報も多くなっただけに、若い当事者にとっては自分はどうすればいいのか迷うひとが増えてもおかしくありません。逆に30台や40台の当事者は、自分たちが一番悩んで苦しんだ時期には何の情報もなかったという、語りつくせない痛切な思いがあると考えると、私自身も複雑な思いです。しかし、物事は深刻に考えても解決しないことは学びましたので・・・・。
(クアラルンプールにて)


2011年6月14日火曜日

もう一つのMTF・SRS術式

直腸S状結腸膣形成術
Recto-Sigmoid Colon Vaginoplasty



一般的なSRSとは

MTFの手術方式といえば陰茎・陰嚢皮膚反転方が一般的で、ほとんどのSRSはこの方式で行われています。ただこの術式にも問題がないわけでななく、難点は手術の技術上の問題ではなく、術後のダイレーションという大変根気のいる、長期にわたる作業が待ちかまえていることです。これは患者に日課として課せられるメンテナンス作業ですが、6ヶ月以上の長期にわたるためついつい手抜きしたり、痛みにくじけて挫折するひともでてきます。

新たに造った新膣のポケットが縮小しないように、ダイレーターというアクリル製のペニス状の棒を膣内に挿入し、膣を構成する筋肉組織や内壁が縮まないように、毎日2回は30分ほどこの挿入作業をする必要があります。期間は最低でも術後6ヶ月、その後は回数をへらして1年ほどは続けます。アクティブな性生活を送れるひとは、性交がダイレーションの代わりになるので、この面倒な作業からは早く開放されます。

問題なのは、術後間もない時期はまだ膣内も安定していないため、ダイレーション中に出血したり、痛みがひどくて挿入を中断したり、または次の大きいサイズのダイレーターに進めなくて、途中でギブアップするケースがあることです。

自分で自分の膣内に挿入するわけですから、痛い場合にはどうしても弱気になりひるんでしまいます。所定の深さまで挿入できず中途半端なダイレーションで終わってしまい、それに妥協することがダイレーション失敗の原因となるのです。

特に最初の1-2ヶ月が大事な時期です。この期間に大きいサイズのダイレーターに成功していれば、あとはまず心配することはないでしょう。この時期にギブアップすることは膣の深さが浅いまま、膣径も小さいままで将来を過ごすことになるのです。

男性とのアクティブな性生活は期待していない人、また念願の本来の女性になれだけで十分です、と自分で納得できる人はそれでも構わないでしょう。

ところが、男女間の性交のできる膣がどうしても欲しいという場合には、残された方法はひとつです。それが、直腸S状結腸部分を使った膣形成術です。最初に行ったSRSのやり直しですから、再手術ということになります。

最初から直腸S状結腸膣形成術を選ぶ場合

SRSの術式として患者が最初からこの方法を選ぶ、または医師が推薦する場合があります。
それは生来ペニスが小さい、包茎手術で皮膚が足りない、または内壁に使える陰嚢皮膚が足りそうにない場合です。この場合にはダイレーションでも得られる深さは限られるので、最初からこの術式を選べばダイレーションの苦労を味わうことなく目的を達成できます。該当すると思われる方は、この術式を最初から検討する価値は大いにあると思います。

直腸S状結腸を利用した膣形成術の優れた面

1.この大腸内部には自然の膣粘液に似た成分が産出されており、やわらかいひだの多い腸の内壁は伸縮性にすぐれ、構造的にも見た目にも女性の膣内部と似通っている。

2.自発的な粘液の産出があるため、そのうるおいにより性行為が容易に行える。潤滑剤のジェリーなども必要ない。

3.長期にわたる膣内ステント(ダイレーター)を使用しなくても、十分な膣の深さと広さが確保される。

4.患者自身の満足感が高く、結果に対する医師の満足感も高いという評価が多い。


この術式の留意点

1.結腸を切除して移植する手術のため下腹部を切開する必要があり、帝王切開(横10cm)ほどの傷跡が残る。

2.結腸特有の粘液が自然に産出されるため、おりものに似た液が常に出るためナプキンが必要になるという報告がある。ただ、女性にはある種のおりものはつきものなので、実際に手術を受けた患者の満足度が高いという点を考慮すると大げさに考えるほどの問題ではない、というのが担当医師の見方です。

3.この手術法は二つのチームに分けて行い、内臓外科医が約10~15cmの直腸S状結腸部分を切り離し、SRS外科医チームが新膣のスペースを切り開いて、最後に膣口に接合するという方法をとる。二つの作業は同時進行的に行われる。
 
4.合併症として便通に異常(下痢、便秘など)が起こり得るが、2-3ヶ月で排便機能は正常にもどると考えてよい。

5.腹部切開による結腸を切除する手術が必要となるため、通常のSRSの場合より経費が2千ドルほど高くなる。


プリチャー医師がいつも言うように、どんな手術にも完璧というものはない。アジアのSRS先駆者であるPAIでは、1980年から2011年までの30年間に1158例に及ぶこの術式の経験を重ねている。患者の満足度の高さからもいっても、プリチャー医師はこの術式のプラス面がもっと前向きに評価されるのを期待しているとコメントしています。

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2011年6月1日水曜日

イスラム教国マレーシアのTSの現状

マレーシアのトランスセクシュアルの話題

今マレーシアに滞在しています。イスラムを国教とする国ですが、中近東などと違い包容力のある政策で他宗教にも寛大で、キリスト教、ヒンズー教、仏教なども認められています。現時点の国民の構成は、マレー系59%、中国系32%、インド系9%という構成になっている。
ただマレー系の人々はまず全員がイスラム教徒であることが原則で、イスラムの戒律を守ることが要求されている。

イスラムでは豚肉はご法度なので、ホテルなどではソーセージやハムもチキンか牛肉で、ぱさぱさしておいしくない。ほとんどのフードコート(食堂街)でもさまざまな料理が注文できるが豚肉だけは出てこない。中華料理のレストランなら豚肉も問題なく食べられる。そこにはイスラム教徒は近寄らないからである。

イスラム教徒も男性は普段着では区別がつかないが、女性はまず全員がヘッドスカーフをかぶっているので遠くからでも識別できる。暑い気候なのに長袖とジーンズやくるぶしの隠れる長いワンピース姿が普通。スカーフは色やデザインはとりどりで、衣服のファッションのコーディネートを楽しんでいるのは見ていても心が華やいでくる。

マレーシアではイスラム系の女性の社会進出は活発で、サウジアラビアのように女性の運転は禁止などという戒律はなく、街の風景もカラフルで、女性のファッションが目を楽しませてくれる。

人種や文化が違っても世界中のどこの国にもトランスセクシュアルは存在する。イスラム諸国では表立っては認められていないが、TSや同性愛などイスラムの認めない性指向をもつ人たちの存在は否定のしようがない。ただ社会的には表立って話題になることが少ないのは隣国タイなどとの違いである。それだけに当事者にとっては理解してくれる味方が少なく、孤立した環境におかれているのは大いに同情に値する。

今回クアラルンプールへに着いた日の英字新聞に、珍しくトランスセクシュアルの記事があったので以下にご紹介しておきます。

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Helping transsexuals blend into society (New Straits Times, 28th May 2011)
トランスセクシュアルが社会に溶け込むために


マレーシアの東海岸パハン州のクアンタン市は南シナ海に面するリゾート地として有名なところです。ここのリゾートホテルのセミナー会場に集まってくるデザイナーバッグを携えて颯爽としたみなりの女性たち、立ち止まった人たちの目が追いかけます。

ただこの女性たちは見世物的なイベントやひんしゅくを買うような目的のために集まったのではありません。30歳から40歳台の30人のこのグループが集まった目的は、ここでの4日間のセミナーでこれからの人生の目標とモチベーション向上を図り、自らの暮らしと人生の充実を目指す手がかりをつかむことです。

”プリティウーマン”と言われてもおかしくないような人は美容師やドレスの縫製などの仕事で生計を立てているものの、家族から疎外され社会からは横目でみられる人たちの行き着く場所は夜の世界しかないのが現実です。

このセミナーではいろいろなキャリア向上プログラムや人生を新たに始めたい人のためのプログラムに加えて、健康管理や道徳問題にも時間をさいている。

午前中いっぱい真剣な課題に取り組んだあとは、参加者たちはファッショナブルなアクセサリーや衣服からスポーツ着に着替えて、チームで行動する野外プログラムに参加する。その中には3時間のジャングルトレッキングもある。

参加者の一人ララ(仮名)はジョホールバル市出身で、彼女の言いうにはこのセミナーは眼からうろこが取れる新鮮なもので、TSコミュニティーの他の人たちにもぜひ広めてもらいたい、とこのセミナーの意義を高く評価している。

「私たちはいつも差別されていると感じています。自分の家族は現実を受け入れる心の用意ができていても、周辺の人々はやはり受け入れを拒む態度なので、私たちは透明人間のように感じながら生きています。このようなプログラムの助けがあればもっといい将来を期待することができます。」

ララは現在はドレスの縫製で生計を立てているが、地域社会の偏見のため彼女と同じ立場の人たちが職場を見つけるのは容易ではないと言う。

「私たちの中には大学卒もいるが、悲しいことに社会が拒むため仕事を見つけるのはむずかしく、そのうちに夜の世界に吹き寄せられてそこしか居場所がない人が多いのです。」

アンパン出身でフリーランスの美容師をしているジム(仮名)は言う。「このようなプログラムがもっとあれば、国内のトランスセクシュアルたちが日ごろから抱いている社会に出る恐怖憾に打ち勝つ助けになると思います。また、このようなプログラムは同じような境遇にいるトランスセクシュアルと知り合い助け合ういい機会になります。」

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(注1)この新聞記事では、インタビューされたLara(女性名)は、文面ではheと男性として扱われている。もう一人のJimは男性名なので違和感はない。イスラム教国家であるマレーシアでも性的マイノリティが存在することは知られているが、公には認知されていないため、たとえSRSを済ませても性別変更はできない。

(注2)イスラム教国家ではSRSを行う病院は存在しないので、手術をする場合は隣国のタイかシンガポールということになる。手術費と滞在費用を考えると、SRSまで踏み込めるTSは多くないと推測される。このセミナーの参加者の中にはまだSRSを済ませていないTSがかなりの割合で混じっているのではないかと思われます。

(注3)このセミナーは政府機関であるイスラム開発局やマレーシア・エイズ協議会など4団体の主催で行われたものです。

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2011年4月17日日曜日

“SRSを無料で提供します”


“SRSを無料で提供します”

このバンコクポスト紙の2月24日の記事は、ちょうどその時バンコクに滞在中だったのに気が付かず、やっと昨日になってBPネット版の関連記事として目に飛び込んできました。

掲載された写真も大いに参考になりますので、遅まきながら紹介させていただきます。写真のキャプションを翻訳しておきますので、この記事の主眼がおわかりになると思います。タイのトランスジェンダーの状況がたいへん身近に感じられて、私としても思わず“グッドラック”と声援を送りたい気持ちになりました。

8枚のスライド写真は以下のURLからアクセスできます:
http://www.bangkokpost.com/multimedia/photo/223339/A-Free-Sex-Change

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性転換手術はタイではどの医療保険制度でもカバーされていません。「シスターズハンド(姉妹の手)財団」は私的な組織で、少数のトランスジェンダーの性転換手術費用を全額提供するのを目的に設立されたものです。

《写真のキャプション》 (Photos by Somchai Poomlard)
(1)シスターズハンド財団の提供する資金援助に応募するために、タイ・トランス女性協会本部に集まったトランスジェンダーたち。(写真: ロビーで待機する応募者たち)

(2)この財団は手術費用をまかなえない対象者に、無料で性転換手術が受けられるための費用を提供します。

(3)2010年に始まったこのプロジェクトは2年目を迎えます。手術は約100,000バーツの費用がかかるため、毎年5人分の予算しかありません。今年は100人近くが応募しました。

(4)前ミス・アルカザーとして有名になり現在はタイ・トランス女性協会の会長をつとめるヨランダ・クリッコンさんによると、性転換手術が医療保険に対象になっている国もあるが、タイではそのような制度は存在しない。そのためシスターズハンド財団が設立され、自分では手術費用を負担しきれない当事者たちの希望を支える役目をになうことになった。(写真:ミス・ヨランダ)

(5)手術を受ける資格を満たす条件として、トランスジェンダーは一連のテストをクリアする必要があります。応募者はそれぞれ精神科医とホルモン専門医の承認を受けたのち、12ヶ月以上の期間を女性として生活を送っていることです。

(6)タサランガ・オンミースクさんはこの制度のもとで初めて性転換手術を受けた一人です。今回の応募集会ではこの制度のおかげで自分の人生がいかに変わったか、涙ながらに語りました。(写真:ミス・タサランガ)

(7)前回のもう一人の合格者は、選考にパスしてどんなにうれしかったかとそのときの感激を語った。自分は生まれ変わったと感じたこと、それまでは毎日苦しい日々を送っていたこと、選考に受かったときは、一切のためらいや恐れはなかった、痛みなどはちっとも怖くなかった、たとえ死ぬような結果になろうとも手術は受ける心の用意はできていた、完全な女性になれる日を待ち焦がれていたのだから、と自らの体験を語った。

(8)この応募イベントでは、アルカザー・パタヤから招かれたキャバレータレントが雰囲気をやわらげるため演技を披露した。

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《解説》
●手術費用の10万バーツとはいくらくらい?大卒の初任給が約1万バーツとして、10か月分の給料に相当します。日本の貨幣価値でいえば200万円前後に相当する額でしょう。タイの生活物価水準からも相当高い金額で、若者が単独で出せる額を超えています。日本人がタイで手術する場合はMTFで80万円―100万円くらいですから、日本人にとっては国内よりもやはりタイでの手術の方が安いと言えます。10万バーツは現地のタイ人特別価格で、外国人には別の料金体系が適用されます。

●「アルカザー」というのはビーチリゾートのパタヤで有名な、いわゆるニューハーフショーの劇場です。現地ではキャバレーショーと呼ばれていますが、日本のホステスのいるキャバレーとは違いショーを見せる劇場です。多くのTSがショータレントとして働いており、観光客の間で大評判です。世界各地での海外公演も好評を博しているようです。

●PAIでSRSを終えたばかりのイタリア人のTS女性と話す機会がありました。彼女の言うには、イタリアはカトリックの国なのでGID当事者にとっては宗教的偏見もあり暮らしやすい国ではない。SRSは公立の病院なら無料で手術が受けられるが、医師の技量レベルに問題があり、後悔して泣いている友人が少なからずいる。私はタイのことは予備知識もろくになかったが、結果的にバンコクに来たのは大正解だった。ここの清潔な病院やスタッフのサービス、医師の技量などすべて安心できる水準なので、帰ったら友達にもタイを勧めるつもりだ、と大満足の様子でした。

●この記事の写真からも若い女性が多いのに気づくでしょう。以前にも触れましたが、タイではゲイやトランスジェンダーに対する社会的な抵抗が低く、多くのTG、TS当事者が十代からホルモン治療などに進み、クロスドレッシング、反対の性での生活などSRSへの準備に早期から取り組んでいます。ただ、SRSは18歳を過ぎるまで許可されません。また、SRSを済ませたあとでも戸籍やIDカード、パスポートなどの性別変更が許されないなどの社会的障害は依然として解決されていません。

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2011年4月8日金曜日

声の女性化手術


声の女性化手術について

このテーマについては患者さんから問い合わせがあり、今年2月にバンコクに行った折にプリチャー先生に相談したばかりでした。というわけで、前回投稿した女声と男声を自在に歌い分けるタイの女性歌手のニュースは、ほんとにタイミングよく飛び込んできたわけです。

プリチャー先生に声の女性化手術でだれか推薦できる医師はいますかと聞くと、ためらいなく返事が返ってきた。

「世界中どこを探してもそんな医師はいない。手術で声帯のピッチは変えることはできても、その結果どういう声になるかは予測できない。耳障りなピッチの高い声になるかもしれないし、ヒューヒュー息が漏れるような声になるかもしれない。それを修正するのはさらに大きなリスクが伴う。のどに傷跡も残る。どんな手術でも完璧は期待すべきではないが、この手術は患者にとってリスクが大きすぎる。PAIではこの手術は行わない」、ときっぱり言う。

「タイでもこの手術を行っている医者はいるが、手術後に声が出なくなったケースもあったことも知っている。国際的な学会でもこの話題がでるたびに、その手術の効果に否定的な見解が圧倒的である。やはり、時間はかかるが女性の声をまねる訓練を行うのが一番安全な方法だと考えている。」

手術ではなく発声訓練で

2004年にバンコクで行われたSRSワークショップで講演したオランダの医師は、「一番現実的でお勧めできるのはプロの役者のように女声の発声法を時間をかけて身につけることだ。腹から声を出すのではなく、意識的に少し上にあげて胸あたりから出すように訓練すれば、声のピッチも高くなり女性的な発声になる。あせらずに時間をかけて訓練すれば、違和感のない女声の話し方ができるようになるでしょう。」と言っていました。

発声法についてはその分野の専門家もいるようですので、ネットで調べるなどして指導を受けるのもいい方法かもしれません。

数年前の日本のGID学界でもこのテーマの講演がありましたが、経験あるその医師も手術の結果どういう質の声になるかは予測できない、とこの手術の難しさを指摘されていました。

予測できるリスクの大きさと、うまくいった場合の価値とのバランスをどう判断するか。それは個々人の価値判断によりますので、いちがいに決め付けるべきことではないと思います。ただ、SRS関連の他の手術にくらべてリスクが高い手術であることは念頭に置くべきでしょう。

日本のテレビによく出る有名TSタレントでも、声の女性化手術を受けているひとはいないのではないかと思います。それぞれ自分の自然な発声法と、女性でも男性でもない中性的な感じの声で話されているのを見ても違和感はありません。女性的な身のこなしや話しぶりが身についている限り、声の質という物理的な要素はそんなに大きな意味は持たないと私自身は感じています。

TSと俳優の人生

もともとジェンダーは女性だといっても、身についた男性としての身のこなし、マナーなどは簡単には女性化できません。服装やヘアスタイルなど外見は女性化しても、周囲に与える印象は男性時代のなごりをひきずっているのが普通です。

まず周囲の女性の身のこなし、立ち振る舞い、テーブルマナー、しゃべり方、ジェスチャーなどをよく観察することです。俳優はよく観察することで、その人物になりきった自然な演技ができるようになります。“言うは易し、行うは難し”なのはよく分かりますが、シェークスピアの言ったように“人生は劇場であって、それぞれが登場人物の役割を演じている」のです。むずかしいからと言って役を降りることは許されていません。完璧にその役になりきることはできないし、またその必要はないのです。

SRSで肉体的に本来の性になるのは(完璧を求めない限り)比較的に簡単です。ただ、それで終わりではないことがやっかいなのです。TSとして社会の中で生きていくためには俳優の人生が待っていることを自覚するのが必要ではないかと、SRSの現場にたち会うたびにつくづく思います。

毎日舞台に立っている俳優のつもりで本来の自分の性の役割を演じてみてください。何事にも完璧はありません。一生続く稽古のつもりで、めげずに励んでください。ご健闘を!

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2011年4月5日火曜日

女声・男声を歌い分けるTS歌手


女声・男声を歌い分けるTS歌手

いまタイのみならず中国などでも、YouTubeを通してセンセーションを巻き起こしている歌手がいる。
MTFトランスセクシュアル歌手、ヌンティタ・カンピラノン(愛称ベル)さんである。

Britain’s Got Talent というイギリスのタレント発掘番組で世界にセンセーションを巻き起こした、スーザン・ボイルなみの騒がれようである。このタイ版であるThailand’s Got Talentがバンコク・ポスト紙(4月2日版)に紹介されているので、その記事を翻訳してご紹介しましょう。

ヌンティタさんのなんとも愛くるしい顔立ちと、素直でやさしい見事な女声は観客の男女を問わず魅了してしまった。しかも、低い男声でも歌えるのがこのひとの才能なのです。





YouTubeで3月13日に放送されたコンテストの動画のタイトルは:
"Thailand's Got Talent: Boy or Girl?" (すでに327万以上のアクセスあり!ぜひトライしてみてください)

もう今頃には100万人以上の人たちがこのThailand’s Got Talentのシーンを見たに違いない。美しいの一言に尽きるトランスジェンダー歌手、ヌンティタ・カンピラノン(愛称ベル)さんが、女の声で歌い始め後半は男の低い声で歌い終えるという類まれなタレントを披露し、三人の審査員を煙に巻きながら、一方では観客を歓喜させたのです。

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(以下はインタビュー内容)
バンコク東北部のナコン・ラチャシマ県出身のヌンティタさんの言うには、「自分の覚えている限りでは、子供のころから自分は男の身体にとじこめられた女だと気づいていました。」

「軍隊に所属する父親の一人息子だったので、男の子である自分が女性的な態度や感情を表に出すのは父親とのもめごとのもとになりました。」

「学校では男の子たちは私をからかい、しょっちゅういじめられました。家では父に死ぬほど殴られたこともあります。父は私が“普通の子”であって欲しかったのです。」

いじめをどうやって乗り越えたのかの問いには、ヌンティタは歌を唄いたいという情熱がだんだん大きくなったのが救いになったという。

「小さいころから歌うのは大好きでした。お父さんはカラオケが大好きでした。おばあさんも昔は歌手だったのです。というわけで、歌への情熱は家系の血の中にあったのでしょね。」

「十代の頃、歌唱クラブに入りました。私の夢を実現するためにできることのひとつだったし、同時に他の男の子たちから距離を置くには好都合だったのです。」

「もっと大事なのは、歌唱コンテストで学校代表として認められるのは、学校でただのゲイボーイと呼ばれてからかわれるよりははるかに意味があったのです。」

職業学校での教育期間が終わると、ヌンティタはバンコクに出てもっと勉強したかったものの、家庭の経済事情がそれを許さずあきらめざるをえなかった。

「学校を卒業すると地元のラジオ局でDJの仕事が見つかり、さらにクラブで歌い始めることができました。」

ある晩、面白い発想がヌンティタの頭に浮かびました。それは、仲間の歌手たちを喜ばてやろうと男声と女声の両方で歌って見ようと決めたのです。

「男声で歌うと、観客は私がトランスセクシュアルだと気がついたらしいのです。皆さん大変喜んでくれました。その時以来、聴衆を前にするとこのトリックで歌っています。」

バンド演奏で歌っているうちに彼女の才能が発揮されただけでなく、ボーイフレンドもできたのです。

「ボーイフレンドもバンド仲間でした。8年間も一緒にいたのですが、私がバンコクのショーに加わる決心をしてからは関係が悪くなり、終わりになってしまいました。」

チャンスのドアが開けると、ヌンティタは迷わず飛び込み、心の声に従ったのです。Thailand’s Got Talentについてヌンティタがとくに感謝していることは、このショーはジェンダーが何であれ、皆それぞれに平等のチャンスを与えてくれることです。

「このショーに出ようと決めた理由は、すべてのジェンダーに開かれているからでした。私にとって最高の舞台であり、自分の才能と私が何者であるか、観客の面前で堂々と見せられる機会だったのが主な理由です。」

三人の審査員が全員一致で合格の票を入れたあと、ビデオの終わり部分でヌンティタはカメラに向かい、父親への短いメッセージを送りました。「お父さん、私はやっとやり遂げました。愛してるよ、お父さん」

このイベントの後で父親と話す機会があったかと聞くと、ヌンティタは「はい、父は今では私のことを誇りに思っている。そして、お前がどんな人間であろうとも、善良な心をもつ人になりなさい」との父親の言葉を教えてくれた。

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ヌンティタは女声、男声、とも両方使いこなせるということは、彼女は声の女性化手術など受けていない証拠です。歌うことで時間をかけて声の女性化に見事成功した、模範的な例ではないかと思います。

では、自宅のカラオケ装置を使って練習するというのも、簡単で実行可能な方法ではないでしょうか。

MTFの声の女性化手術については最近プリチャー先生とも話し合ったばかりですので、次回のテーマとして取り上げることにします。

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2011年1月31日月曜日

スワナプーム国際空港と市内を結ぶエアポートリンク


スワナプーム国際空港とバンコク市内を結ぶエアポートリンク

バンコク中心地とスワナプーム国際空港を15分で結ぶ快速鉄道「エアポートリンク」が昨年8月に開通した。その便利さが大いに期待されたが、現地新聞の読者コメント欄では利用者の反応はかんばしくない。私自身も昨年11月に始めて利用してみたが、正直なところ便利さに関しては期待はずれだった。しかし、利用の仕方では安くて便利な場合もあるでしょうから、ここでエアポートリンクの概略を紹介しておきます。

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列車には2種類あり、エクスプレスラインは空港と市内中心に近い「マカサン駅」をノンストップで結ぶ高速線で、これが「エアポートリンク」と呼ばれている。最高時速160キロの高速で、所要時間は15分。

空港から各駅停車して終点の「パヤタイ駅」まで8駅を結ぶサービスが「シティ・ライン」と呼ばれている。この線は通勤客や学生の利用が中心。終点までの所要時間は27分。

両路線とも始発の午前6時から深夜0時までの運行。運行間隔は15分。

路線の全長は28.6キロで、エアポートリンクは最高時速160キロで走行。

空港からマカサン駅までのエアポートリンク料金は150バーツ。パヤタイ駅までのシティ・ラインの料金は距離により、15バーツから45バーツまでとなっている。

エアポートリンクはタイ国有鉄道(SRT)の所有と運行になるもので、タイでは最高速の鉄道となります。

2011年1月4日より、バンコク中心街に近いマカサン駅に航空手荷物のチェックイン用カウンターが営業開始した。ただし、当面の間は利用できるのはタイ航空とバンコク・エアウェイズの2社便だけとなる。チェックイン時間は飛行機の出発時間の3時間前から13時間前までの間。

車両と運行システムはドイツのシーメンス社製で、手荷物のチェックイン設備とシステムは国有鉄道とタイ空港公社(AOT)との共同開発になるものです。

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           (無料で試運転期間中の光景)

マカサン駅の手荷物チェックインが便利かどうかは、私見ながらかなり疑問です。当面の間はタイ航空とバンコク・エアウェイズだけという点は別としても、東京のシティ・エアーターミナルでやっていたような出国検査までできるのなら大いにメリットがあるが、空港での出国検査の長蛇の列を考えるとメリットは半減する。マカサン駅までタクシーで来るなら、一気に空港までタクシーで行ったほうが楽ではないか。また、料金も一人利用なら得かもしれないが、鉄道料金は2人以上だと不経済になり、タクシーの方が安くなる。

空港から市内までの利用では、空港駅で荷物を列車に積み込み、マカサン駅ではガラガラと引っ張ってタクシー乗り場でまた積み込んでホテルに向かうことになる。私が利用した夕方の時間にはタクシーは1台しかいなかった。

エアポートリンクの乗り心地は悪くない。ドイツのシーメンス社製の車両は快適で、荷物置くスペースもあり、走行音も静か。マカサン駅までわずか15分で到着するので、ゆっくり景色を味わうひまもないくらい。私の利用した夕方5時ごろの時間帯では、2両編成の車内は5人くらいしか乗っていなかった(空港から市内まで)。まだ周知されていないからでもあるでしょう。

もうひとつ気がついたこと。マカサン駅からタクシーでホテルに向かうとき、駅は3階レベルにあるので、タクシーは駐車場ビルのような急斜面のらせん状の狭い出口をぐるぐる回りながら降りていく。地上レベルに着くと市内中心部とは反対方向に向かう車線に出る。すこし走ってからUターンして中心部に向かうことになる。

要するに設計の段階で利用者の利便を考えていない証拠。これは空港ターミナルでも同じで、やっと地下駅まで降りても、チケット窓口からホームに降りるエスカレータまでの導線がスムーズでない。チケットを買ってから5メートルほど引き返して下りエスカレータに乗るという、大きい荷物を持つ場合などにはイライラさせる設計になっている。

また、エアポートリンクのチケット売り場はシティ・ライン用窓口の反対側に設置され、通常の導線で近づいても見えない位置に設置されている。案内標識が親切でない。

欲を言えばいろいろ欠点はあるものの、エアポートリンクは一人で身軽に旅行する場合や、空港に人を迎えに行くような場合には便利な乗り物だとは思います。ものは試しに、一度は乗って見てください。

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2011年1月28日金曜日

「第三の性」エアホステス-続報


「第三の性」エアホステス - 続報

トランスセクシュアル乗務員については投稿したばかりですが、このニュースの続報が今朝のザ・ネーション紙に載りましたので早速お伝えします。

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PCエアのトランスセクシュアル乗務員、まず日本、韓国、中国へのチャーター便でデビュー

「当社はすべての性別の乗務員を雇用する最初の航空会社になりました。これはプラスのイメージで社会に受け入れられたと理解しています」。会見に臨んだこの新しい航空会社のスポークスウーマンのチュタティップさんは笑顔で答えていました。

このタイの新規設立の航空会社は3月からスワナプーム国際空港を拠点に運行を開始する予定で、まず日本の成田と関空、さらに韓国に乗り入れを実現し、その後中国の主要都市に路線を拡大する計画だそうです。

PCエアは2年間の事業化検討期間を経て、昨年7月に会社設立された航空会社。会社のオーナーはピーター・チャン氏と元官僚のチャトウィワット・クルムコモン氏で、当面は運行コストを抑え他の経費も現実に合わせて運営できるように、チャーター便に特化する方針でいくとのこと。

PCエアは便利な時間帯に飛ぶ定期チャーター便として、日本は東京と大阪路線で開設する。ビジネスクラス18席、エコノミー210席の機材を使い、機種はエアバスA310-222型でミャンマーのエア・バガンからリースで調達する。

マーケティング、地上サービス要員、パイロットなど総計100人の社員を雇用し、その内30人が客室乗務員となる。

「この路線にはすでに競争相手がいるのは承知していますが、名前は私が言うまでもないでしょう」。とチュタティップさんは笑顔で言う。

今週始めに3人のトランスセクシュアル客室乗務員の採用が発表された時には社会の耳目をあつめたが、第三の性の乗務員の雇用についてはすでに民間航空局より認可がおりているそうです。

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日本の国土交通省が乗務員の性別にイチャモンをつける筋合いはないので、また成田空港も羽田の国際化に対抗する必要から、PCエアの成田と関空就航がスムーズに実現することを願っております。みなさん、応援してあげてください!次回のバンコク行きはPCエアで!

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2011年1月26日水曜日

「第三の性」エア・ホステスが離陸準備中


「第三の性」エア・ホステスが離陸準備中


1月25日付のタイのThe Nation紙をはじめインターネット3紙に、トランスセクシュアル女性3人が新規航空会社のエア・ホステスに採用されるという明るいニュースが掲載されています。「ザ・ネーション」を中心にして3誌の内容をとりまとめてお伝えします。ちなみに、日経新聞の26日夕刊の社会面にも簡単な紹介記事がありました。

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3月1日から運行を始めるタイの新しい航空会社「P.C. エア」が、トランスセクシュアルの就職志望者をエアホステスとして採用したというニュースが就労の悩みをもつ人たちを喜ばせている。採用された求職者の中には2007年のミス・ティファニー美人コンテストで優勝したタニャラートさんがいることも注目の的となっている。

P.C.エアの経営者ピーター・シャン氏は、この航空会社を立ち上げるに当たりトランスセクシュアルがエアホステスの仕事に適性を有しており、その可能性を以前から認識していたと述べている。

初期の職場教育期間を経た後は、トランスセクシュアルたちは他の女性エアホステスたちに交じって実地訓練を受けることになる。ただ他のエアホステスと違うのは、“第三の性”と記された金色の名札をユニホームにつけて乗務することで、これは空港の出入国管理を通過する際の混乱や乗客の誤解を避けるのが目的であるとシャン氏は説明している。

P.C.航空のスポークスウーマンによると、今回のトランスセクシュアルの採用枠は3人だけであるが、将来的には資格や適性を考慮して採用枠を増やしていきたいと述べている。今回の採用第一陣は17人の女性、10人の男性、そして3人のトランスセクシュアルとなっている。

2007年度のミス・ティファニーのタニャラートさん(23)は、最初は、以前に他の会社でもあったように就職申し込みは受け付けるが、最終的には採用しないというパターンかと思ったのに、あこがれていたこの仕事のチャンスが与えられて最高にうれしいと満面の笑顔。

採用されたもう一人のトランスセクシュアル、パンタカンさん(24)の話では、他の航空会社で以前エアホステスの採用申し込みをしたものの採用されなかった。後でその会社で働く友人から聞いた話では採用されなかったのは彼女がトランスセクシュアルであったからだと聞き、その差別意識にショックを受けた経験があると述べている。

パンタカンさんはカセサート大学卒でホスピタリティーとツーリズムの学位をもち、今度こそはこの仕事で成功したい、またタイの社会がトランスセクシュアルにより広い機会を与えるようになったのを心強く思うと述べている。

(注)タイではSRS後のトランスセクシュアルでも戸籍上の性別変更は認められず、身分証明書やパスポートなども元の性別のまま。SRS先進国ながら法的な整備がされていないのが問題視されている。トランスセクシュアルはタイ語では“カトーイ”と呼ばれる。


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この航空会社の機体にも書かれている“わたしはマイウェイで行きたい“という会社のモットーに従い、3人のトランスセクシュアルを採用した。

P.C.エアはバンコクのスワナプーム新国際空港を拠点とするハイクオリティーなサービスを目指す航空会社で、本年3月1日より運行開始する予定。日本の大阪や東京にも路線を拡大する計画があり、近い将来に“カトーイ”のエアホステスのサービスを受けるのも可能になりそうです。乞うご期待。

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私見ながら、“エア・ホステス”という呼称について。古くはステュワーデスに始まり、エア・ホステス、キャビン・アテンダント(客室乗務員)、フライト・アテンダント、などと呼ばれています。エア・ホステスは比較的古い呼称で、今ではあまり使われていないようです。“ホステス”と呼ばれるのがプライドを傷つけるのでしょうか。それとも、ホステスにふさわしいサービスはもう提供していないから、でしょうか。

今回の記事でもザ・ネーション紙は“エア・ホステス”を使っていますが、他のソースでは“フライト・アテンダント”または“キャビン・アテンダント(CA)”と呼んでいます。後者のキャビン・アテンダントやフライト・アテンダントは客室乗務員という職能を重視した呼称で、それはそれで結構ですが、ホステスの方がお客様を温かくもてなす人という元々の意味があり、人間的な温かみを感じます。

バーやナイトクラブのホステスではないですが、パーティを主催し来客をもてなす女主人はホステスとという尊称で呼ばれます。男性ならホストです。この方が人間的な温かみがあり、とくに笑顔で応対するであろう美形のTSエアホステスからは本来のサービスが期待できそうで、この呼称が一番ふさわしいと私は勝手に思い込んでいます。

ついでながら、看護婦さんは今では看護士などという無機質な呼称になっていますね。私も入院した経験がありますが、彼女たちは看護士などという無機質な存在ではなく、まさに天使ともいうべき温かい存在であり、個人的には今でも看護婦さんと呼んでいます。それでなにか問題があるのか、と開き直りたくなりますが・・・・・

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