2011年6月14日火曜日

もう一つのMTF・SRS術式

直腸S状結腸膣形成術
Recto-Sigmoid Colon Vaginoplasty



一般的なSRSとは

MTFの手術方式といえば陰茎・陰嚢皮膚反転方が一般的で、ほとんどのSRSはこの方式で行われています。ただこの術式にも問題がないわけでななく、難点は手術の技術上の問題ではなく、術後のダイレーションという大変根気のいる、長期にわたる作業が待ちかまえていることです。これは患者に日課として課せられるメンテナンス作業ですが、6ヶ月以上の長期にわたるためついつい手抜きしたり、痛みにくじけて挫折するひともでてきます。

新たに造った新膣のポケットが縮小しないように、ダイレーターというアクリル製のペニス状の棒を膣内に挿入し、膣を構成する筋肉組織や内壁が縮まないように、毎日2回は30分ほどこの挿入作業をする必要があります。期間は最低でも術後6ヶ月、その後は回数をへらして1年ほどは続けます。アクティブな性生活を送れるひとは、性交がダイレーションの代わりになるので、この面倒な作業からは早く開放されます。

問題なのは、術後間もない時期はまだ膣内も安定していないため、ダイレーション中に出血したり、痛みがひどくて挿入を中断したり、または次の大きいサイズのダイレーターに進めなくて、途中でギブアップするケースがあることです。

自分で自分の膣内に挿入するわけですから、痛い場合にはどうしても弱気になりひるんでしまいます。所定の深さまで挿入できず中途半端なダイレーションで終わってしまい、それに妥協することがダイレーション失敗の原因となるのです。

特に最初の1-2ヶ月が大事な時期です。この期間に大きいサイズのダイレーターに成功していれば、あとはまず心配することはないでしょう。この時期にギブアップすることは膣の深さが浅いまま、膣径も小さいままで将来を過ごすことになるのです。

男性とのアクティブな性生活は期待していない人、また念願の本来の女性になれだけで十分です、と自分で納得できる人はそれでも構わないでしょう。

ところが、男女間の性交のできる膣がどうしても欲しいという場合には、残された方法はひとつです。それが、直腸S状結腸部分を使った膣形成術です。最初に行ったSRSのやり直しですから、再手術ということになります。

最初から直腸S状結腸膣形成術を選ぶ場合

SRSの術式として患者が最初からこの方法を選ぶ、または医師が推薦する場合があります。
それは生来ペニスが小さい、包茎手術で皮膚が足りない、または内壁に使える陰嚢皮膚が足りそうにない場合です。この場合にはダイレーションでも得られる深さは限られるので、最初からこの術式を選べばダイレーションの苦労を味わうことなく目的を達成できます。該当すると思われる方は、この術式を最初から検討する価値は大いにあると思います。

直腸S状結腸を利用した膣形成術の優れた面

1.この大腸内部には自然の膣粘液に似た成分が産出されており、やわらかいひだの多い腸の内壁は伸縮性にすぐれ、構造的にも見た目にも女性の膣内部と似通っている。

2.自発的な粘液の産出があるため、そのうるおいにより性行為が容易に行える。潤滑剤のジェリーなども必要ない。

3.長期にわたる膣内ステント(ダイレーター)を使用しなくても、十分な膣の深さと広さが確保される。

4.患者自身の満足感が高く、結果に対する医師の満足感も高いという評価が多い。


この術式の留意点

1.結腸を切除して移植する手術のため下腹部を切開する必要があり、帝王切開(横10cm)ほどの傷跡が残る。

2.結腸特有の粘液が自然に産出されるため、おりものに似た液が常に出るためナプキンが必要になるという報告がある。ただ、女性にはある種のおりものはつきものなので、実際に手術を受けた患者の満足度が高いという点を考慮すると大げさに考えるほどの問題ではない、というのが担当医師の見方です。

3.この手術法は二つのチームに分けて行い、内臓外科医が約10~15cmの直腸S状結腸部分を切り離し、SRS外科医チームが新膣のスペースを切り開いて、最後に膣口に接合するという方法をとる。二つの作業は同時進行的に行われる。
 
4.合併症として便通に異常(下痢、便秘など)が起こり得るが、2-3ヶ月で排便機能は正常にもどると考えてよい。

5.腹部切開による結腸を切除する手術が必要となるため、通常のSRSの場合より経費が2千ドルほど高くなる。


プリチャー医師がいつも言うように、どんな手術にも完璧というものはない。アジアのSRS先駆者であるPAIでは、1980年から2011年までの30年間に1158例に及ぶこの術式の経験を重ねている。患者の満足度の高さからもいっても、プリチャー医師はこの術式のプラス面がもっと前向きに評価されるのを期待しているとコメントしています。

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